売ろう物語
- 作者: 司馬遼太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1972/06/30
- メディア: 単行本
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後藤又兵衛基次の物語である。
朝鮮の役、関ヶ原で名を上げたが、それを富に変えられなかった。
浪人から乞食へと身を落とし最後は大阪の陣を晴れ舞台として討ち死にするわけだが、なぜ彼が俗世の成功を掴み切れなかったかはこの表現に集約されている。
なるほど、あの男の器量なら、世と所を得れば、百万石の大名になっていたかもしれぬ。しかし又兵衛はそういう眼でおのれを秤りすぎる。百万石の値いはあると思うのであろう。それゆえ、黒田家でも主人にたてをつき、福島家でも、おのれを遇せぬ、と怒って去り、おのれを知ってくれればタダでもよい、という気違い沙汰のふるまいをする。腕のある者ほどそのへきがあり、かれらが凡庸な者よりも不幸になりがちなのはそれゆえじゃ
これは同姓同名の商人の意見です。彼はこう結びます。
あのなまずあたまは、人や物に値が付くのは相手によるものじゃということを知らぬ。つまり天道を知らぬ。天道を知らぬ者は真の器量人ではない。
天才にありがちな独善的イメージですね。
ただ、又兵衛本人は限りなく無欲というか物質的な豊かさよりも他者からの羨望や評価で満足する人として描かれているからこれはこれで幸せだったのかもしれませんね。
この一文が印象的でした。
堕ちたとはいえ三万石の値のついた乞食だという自負があるからだろう。笑顔に、卑屈さがなかった。
プライドが高いと言えばそれまで。まあ家族はたまったもんじゃないでしょう。