言い触らし団右衛門

言い触らし団右衛門 (中公文庫)

言い触らし団右衛門 (中公文庫)

自己の強みがわからなかった人

塙団右衛門の物語。

売ろう物語の後藤又兵衛と極めて似ている人物像として描かれている。
同じように自分を高く見積もり浪人・乞食として苦しい生活を送りながら、大坂の陣を最後の晴れ舞台として生涯を終えた。

しかし、団右衛門の場合は縁も実績もなかった。常に彼は一騎武者と侍大将の二つの理想像を持って夢に生きた。

最後の晴れ舞台では他人からの評価を気にしてそれを覆すことを行動原理としている。

昔、大将の器量なしと言われたことと、大将として成功した時に将になっても槍働きを忘れるなとの約束を破ったことの非難に対しての二つである。

夢想は地についた確固たるものがないだけに他人の目線が気になるのだろうか。

大将の器でないことをこう評されている。

われは、ついに大将にはなれぬ男じゃな。一番槍、一番首などは、おのれがやらずとも他の者がする。われはもっと大事な役目があった。

大将の器量とは一座の者の心を読んで、そのふんい気の中で中心になれる器をいう。とすれば、鉄牛どのは、しょせんは一騎駆けの武者であろうか。

逆に言うと一騎武者だけを理想としていればよかったのではないだろうか。
夢想に生きすぎて、己を理解できなかった。
ただ、その鈍感さこそが戦場での抜きん出た武功につながってると思うので一騎武者こそ彼にはふさわしかったと思うわけである。