雨おんな

司馬遼太郎全集 (8) 尻啖え孫市 他九篇

司馬遼太郎全集 (8) 尻啖え孫市 他九篇

試合に負けて勝負に勝った男

関ヶ原の戦い時に、道中の農家に泊まっていた巫女(=おなん)と交わった東軍・西軍に属する二人の侍を描く。

東軍の侍は西軍の侍の武功を横取りして戦後そつなく出世しておなんも側におくが、保身にきゅうきゅうとした生活を送る。
一方、西軍の侍は牢人するが手柄に執着せず悠々と暮らす。

一見出世も女も手に入れられず憐れみさえ誘うような西軍の侍の状況であるが最後にこのように描写される。

「追うな。おなん、おれには武運がなかったぞ」
肩をそびやかして歩き始めた。その後ろ姿にはどことなく、貧乏神のような滑稽な威厳があって、おなんに声をかけさせることも憚られた。

物欲的なものは何一つ手に入れられなかったが尊厳を失わずさっぱりとした印象を持たせる。